厚生年金の老齢給付とは 老齢厚生年金の受給要件・年金額・手続き

厚生年金の老齢給付は、会社員や公務員などとして厚生年金に加入していた人が、老後に受け取る年金です。中心となるのは「老齢厚生年金」で、すべての人が一律で受け取る国民年金(老齢基礎年金)に上乗せされる「2階部分」の役割を持っています。

老齢基礎年金が主に加入月数をもとに計算されるのに対し、老齢厚生年金は「どれくらいの期間、どれくらいの報酬(給与・賞与)で加入していたか」によって、受け取れる金額が一人ひとり大きく変わるのが特徴です。

この記事では、老齢厚生年金の受給要件や支給開始年齢、年金額の計算の考え方に加え、65歳前に支給される特別な年金、家族がいる場合の加算、働きながら受け取る際の注意点まで、実務に役立つ知識を分かりやすく解説します。

老齢厚生年金を受け取るための2つの基本要件

老齢厚生年金を受給するためには、以下の2つの要件を両方満たしている必要があります。

要件 具体的な内容
受給資格期間 国民年金の保険料納付済期間、免除期間、
および厚生年金の加入期間などを合わせて、原則10年以上あること。
厚生年金の加入記録 厚生年金保険の被保険者期間が1ヶ月以上あること。

老齢厚生年金は、原則として65歳から老齢基礎年金とあわせて受け取ることができます。ただし、加入期間が非常に短い場合は上乗せされる額も小さくなるため、具体的な将来の見込み額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で事前に確認しておくと安心です。

老齢厚生年金の「年金額」の構成

老齢厚生年金の額は一律ではなく、主に以下の3つの要素を合計して計算されます。

  • 報酬比例部分:厚生年金加入中の「標準報酬月額(毎月の給与の区分)」や「標準賞与額(賞与の額)」、および加入月数に応じて計算される、年金の中心となる部分です。
  • 経過的加算:制度改正に伴う年金額の調整として、一定の条件を満たす場合に加算されます。
  • 加給年金額:厚生年金の家族手当に相当するもので、条件を満たす配偶者や子がいる場合に上乗せされます(詳細は後述)。

【参考】令和8年度(2026年度)の標準的な年金額

日本年金機構が公表している令和8年度の改定による標準的な年金額のモデルケースは以下の通りです。

  • 厚生年金の標準的な年金額(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む):月額 237,279円
  • (参考)老齢基礎年金の満額(昭和31年4月2日以後生まれの人):月額 70,608円

※このモデルケースは、平均的な収入で40年間就業した夫と専業主婦の妻を想定したものです。厚生年金は現役時代の収入や勤務期間によって受取額が大きく変動するため、ご自身の正確な見込み額は個別に確認する必要があります。

65歳前に受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」

厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられたことに伴い、一定の生年月日を満たす人には、65歳に達する前でも「特別支給の老齢厚生年金」が支給される経過措置が設けられています。

確認項目 主な要件
生年月日と性別 男性:昭和36年4月1日以前生まれ
女性:昭和41年4月1日以前生まれ
受給資格・加入期間 公的年金の受給資格期間(10年)を満たしており、
かつ厚生年金の加入期間が1年以上あること。

特別支給の老齢厚生年金には「報酬比例部分」と「定額部分」がありますが、現在受給年齢を迎えている方の多くは、報酬比例部分のみが対象となります。ご自身が対象となるか、何歳から受け取れるかは、年金事務所やねんきんネットで確認をしてみましょう。

年金の家族手当「加給年金」の仕組み

厚生年金の被保険者期間が20年以上(または実質20年以上とみなされる期間)ある人が65歳に達した時点で、その人によって生計を維持されている一定の配偶者や子がいる場合、老齢厚生年金に「加給年金」が上乗せされます。

令和8年4月からの加給年金額(年額)

  • 配偶者(原則65歳未満):243,800円 (※受給権者の生年月日に応じて特別加算が付く場合があります)
  • 1人目・2人目の子(原則18歳到達年度の末日まで):各 243,800円
  • 3人目以降の子(原則18歳到達年度の末日まで):各 81,300円

※加給年金は自動的には加算されず、年金請求時や対象者が増えた際に届出必要になります。また、配偶者自身が被保険者期間20年以上の老齢厚生年金や障害年金を受け取れるようになった場合などには、支給が停止されることがありますのでご注意ください。

働きながら年金をもらう「在職老齢年金」と基準額

老齢厚生年金を受け取りながら、厚生年金に加入して(会社員などとして)働く場合、毎月の賃金と年金額の合計が一定の基準を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となることがあります。この仕組みを「在職老齢年金」といいます。

  • 令和8年4月からの基準額:月額 65万円

調整の対象となるのは、以下の2つの合計額です。

  1. 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
  2. 総報酬月額相当額:毎月の標準報酬月額 + 直近1年間の賞与総額を12で割った額

この合計額が65万円以下であれば、年金は全額支給されます。65万円を超える場合は、超えた金額の2分の1に相当する額が老齢厚生年金から支給停止(カット)されます。なお、1階部分である「老齢基礎年金」はどれだけ稼いでも支給停止の対象にはならず、全額受け取ることができます。

「在職定時改定」と「退職改定」による年金額のアップ

65歳以降も働きながら厚生年金保険料を納め続けた場合、その実績は将来の年金額に反映されます。

  • 在職定時改定:退職を待たずに、在職中であっても毎年1回(10月分から)年金額が再計算され、増額される仕組みです。
  • 退職改定:70歳未満の人が退職し、1ヶ月を経過した際、退職した翌月分からそれまでの加入期間を算入して年金額が再計算されます。

受け取り時期を選択する「繰上げ受給」と「繰下げ受給」

繰上げ受給(60歳〜64歳での受け取り)

希望すれば65歳になる前に繰り上げて老齢厚生年金を受け取ることができます。早く受け取れるメリットはありますが、請求した時点の年齢に応じて年金額が一定割合で減額されます。この減額率は生涯変わりません。また、原則として老齢基礎年金と同時に繰り上げ請求をする必要があります。

繰下げ受給(66歳〜75歳での受け取り)

65歳で受け取らず、受給開始を遅らせることで、1ヶ月遅らせるごとに0.7%(年8.4%)年金額が増額されます。75歳まで最大10年間繰り下げた場合の増額率は最大84%に達し、その増額された年金額を一生受け取ることができます。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、片方だけを繰り下げることも可能です。ただし、老齢厚生年金を繰り下げる期間中は、上乗せされるはずの「加給年金」を受け取ることができません。加給年金自体は繰り下げても増額されないため、家族状況も含めて慎重にシミュレーションを行うことが大切です。

雇用保険(失業給付)との調整

65歳前に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取る権利がある人が、ハローワークで雇用保険の「基本手当(失業給付)」の受給手続きを行うと、原則として基本手当の支給が優先され、その期間は特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止となります。

また、60歳以降に再雇用などで賃金が下がり、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合も、老齢厚生年金の一部が支給停止されるなどの調整が行われます。退職後の資金計画を立てる際は、ハローワークと年金事務所での確認を分けて丁寧に進めておきましょう。

老齢厚生年金の請求手続きの流れ

年金は年齢に達すれば自動的に支払われるものではなく、本人の「請求」が必要です。受給開始年齢に達する3ヶ月前に、日本年金機構から「年金請求書」が郵送されてきます。

  1. 年金請求書の確認:届いた書類に記載されている氏名、住所、年金加入記録などに誤りがないか確認します。
  2. 必要書類の準備:戸籍謄本、住民票、振込先口座の通帳、雇用保険被保険者証など、案内に従って必要書類を揃えます。
  3. 年金事務所への提出:受給権が発生する誕生日以降に、年金事務所や街角の年金相談センターへ提出します。
  4. 年金証書の受け取り:提出から約1〜2ヶ月後に年金証書が届き、年金額や加給年金の有無を確認できます。
  5. 支給開始:原則として、偶数月の15日に前月・前々月の2ヶ月分が指定口座に振り込まれます。

※過去に「厚生年金基金」に加入していた期間がある方は、報酬比例部分の一部が国ではなく基金や企業年金連合会から支払われる場合があります。ねんきんネットなどの記録で加入履歴を確認しておきましょう。

まとめ:老後の生活設計のコアとなる厚生年金

老齢厚生年金は、会社員や公務員として長く貢献してきた実績が、そのまま老後の生活の安定につながる大切な仕組みです。

基本となる報酬比例部分の計算だけでなく、65歳前の特別支給、家族を支える加給年金、働きながら受け取る在職老齢年金、そして受け取り時期を選ぶ繰上げ・繰下げなど、ライフスタイルや家族構成によって最適な選択肢は異なります。それぞれの仕組みを個別に捉えるのではなく、ご自身の加入記録とこれからの働き方に照らし合わせて総合的に判断することが大切になります。

まずは、誕生日や節目の時期に届く「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」を確認し、ご自身の現在の加入月数や見込み額を把握することから始めてみましょう。より具体的な金額や他制度との調整に迷った場合は、年金事務所の窓口で個別のシミュレーションを依頼しておくと、今後の生活設計をより安心して進めることができます。

参考資料