資産運用を始める前には、日々の支払いに使う生活費と、収入の減少や急な出費に備える予備資金を現金・預貯金で確保しておくようにします。投資へ回すのは、これらの資金を取り分けた後に残る余剰資金です。
生活に必要なお金まで投資すると、相場が下落している時期に現金が必要になり、損失が出た状態で金融商品を売却する可能性があります。投資を続けられる家計をつくるためにも、少なくとも半年分の生活費をキャッシュとして残すことを基本にします。
資産運用の前にお金を3つに分ける
資産運用を始める際は、保有するお金を生活費、予備資金、運用資金の3つに分けるようにしてみてください。住宅購入や車の買い替えなど、近い将来に使う予定があるお金については、生活費とは別の予定資金として取り分けておきます。
| 資金の区分 | 主な用途 | 基本的な置き場所 |
|---|---|---|
| 生活費 | 家賃、食費、水道光熱費、通信費、税金、社会保険料など | 普通預金など日常的に出し入れできる口座 |
| 予定資金 | 引っ越し、教育費、住宅、自動車、旅行、家電の買い替えなど | 普通預金や定期預金など、価格変動を避けられる資金 |
| 予備資金 | 失業、休業、病気、収入減少、急な修理費など | 必要なときに短期間で引き出せる預貯金 |
| 運用資金 | 老後資金など、当面使う予定のない中長期資金 | 株式、債券、投資信託など |
金融商品には、安全性、流動性、収益性という異なる性質があります。普通預金は安全性と流動性が高く、株式や投資信託は元本割れの可能性を伴う一方、中長期の資産形成に利用できます。資金を使う時期に応じて、置き場所を決めることをおすすめします。
生活費は日常の支払いに使うお金
生活費は、毎月の収入から継続的に支払うお金です。給与や事業収入が予定どおり入っている間は、日常生活用の普通預金口座から支払います。
| 支出項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 住居費 | 家賃、住宅ローン、管理費、修繕積立金 |
| 食費 | 食料品、日常的な外食費 |
| 水道光熱費 | 電気、ガス、水道 |
| 通信費 | 携帯電話、固定回線、インターネット |
| 保険料 | 生命保険、医療保険、自動車保険など |
| 税金・社会保険料 | 住民税、国民健康保険料、国民年金保険料など |
| 返済 | 住宅ローン、自動車ローン、奨学金など |
| その他 | 医療費、交通費、教育費、日用品費など |
生活費を把握するときは、銀行口座やクレジットカードの履歴を使い、毎月継続して支払っている金額を合計します。節約を前提とした最低額を作る場合も、住居費や税金など、すぐには減らせない支出を含めます。
固定資産税、自動車税、保険料の年払いなど、毎月の明細に現れない支出もあります。年間で支払う金額を12か月で割り、毎月の生活費へ加えると、実際の支出に近い金額を出せます。
予備資金として半年分の生活費を確保する
予備資金は、通常の収入だけでは対応できない事態に備えて保有するお金です。資産運用を始める前に、少なくとも半年分の生活費を現金・預貯金として確保します。
ここでいう半年分の生活費は、毎月の生活を維持するために必要な金額を6倍して計算します。娯楽費や積立投資額は除き、収入が減った場合にも支払いを続ける費用を基準にします。
予備資金の基本額=1か月の生活維持費×6か月
例えば、毎月の生活維持費が25万円であれば、予備資金の基本額は150万円です。この150万円は投資へ回さず、普通預金など、必要なときに引き出せる場所へ残します。
| 毎月の生活維持費 | 半年分の予備資金 |
|---|---|
| 15万円 | 90万円 |
| 20万円 | 120万円 |
| 25万円 | 150万円 |
| 30万円 | 180万円 |
| 40万円 | 240万円 |
予備資金を確保しておけば、収入が減ったときにも、家賃や住宅ローン、税金、保険料などの支払いを続けられます。生活費を用意するために、株式や投資信託を売却する必要もありません。
半年分を下限として上積みを考える家計
半年分は、資産運用を始める前に確保する基本額です。収入の変動が大きい人や、家族全体の生活費を一人の収入で支えている場合は、予備資金を厚くしておくと、収入が回復するまでの期間を長く確保できます。
| 家計の状況 | 上積みを考える理由 |
|---|---|
| 自営業者・フリーランス | 売上や入金時期が変動し、病気や取引先の事情で収入が減る可能性がある |
| 歩合給や賞与の割合が高い | 会社や業界の業績によって手取り額が変化する |
| 転職・独立を予定している | 次の収入が安定するまで数か月を要する可能性がある |
| 扶養家族がいる | 収入が減少しても、家族の生活費や教育費は継続する |
| 住宅や自動車を所有している | 修理や設備交換でまとまった支出が発生する |
| 利用できる有給休暇や所得補償が少ない | 休業したときに収入が減るまでの期間が短い |
半年分を確保した後も、家計に不安が残る場合は、9か月分や1年分まで預貯金を増やして構いません。投資額は後から増やせるため、半年分の生活費を確保し、家計に余裕を持たせることを優先します。
近い将来に使う予定資金は別に確保する
半年分の予備資金には、住宅購入の頭金や子どもの進学費用など、あらかじめ予定している支出を含めません。これらは緊急時の支出ではないため、予定資金として別に用意します。
例えば、2年後に自動車の購入費として150万円、3年後に引っ越し費用として50万円を使う予定がある場合、合計200万円は予備資金とは別に預貯金で確保します。
使用時期が決まっている資金を株式や投資信託で運用すると、支払時期に評価額が下がっている可能性があります。普通預金や定期預金などを利用し、予定した金額を確保できる状態にしておくのが基本です。
運用資金は3つの資金を差し引いた残額
運用資金として使えるのは、保有する現金・預貯金から、当面の生活費、半年分の予備資金、近い将来の予定資金を差し引いた後の金額です。
運用可能額=現金・預貯金の合計-生活費-予備資金-予定資金
預貯金が多く見えても、その全額を投資へ回せるわけではありません。次の例では、預貯金残高が500万円あっても、運用可能額は140万円です。
| 資金の内容 | 金額 |
|---|---|
| 現金・預貯金の合計 | 500万円 |
| 当面の生活費 | 30万円 |
| 半年分の予備資金 | 150万円 |
| 近い将来の予定資金 | 180万円 |
| 運用可能額 | 140万円 |
140万円を一度に投資する必要もありません。運用目的や値下がりへの受け止め方を踏まえ、一部を預貯金として残したり、毎月の積立に分けたりする方法があります。
株式や投資信託は、預貯金を上回る収益を期待できる一方、元本割れの可能性がありますので、投資には、当面使う予定のない余剰資金を充てることが基本です。
半年分の予備資金が貯まるまでは現金を優先する
予備資金が半年分に達していない段階では、毎月の黒字分を預貯金へ回します。投資を急いで始めると、急な出費が発生した際に投資商品を売却したり、クレジットカードやローンに頼ったりする可能性が高まります。
毎月5万円を貯蓄できる家計で、予備資金があと60万円必要であれば、約1年で半年分の資金を用意できます。その後は、毎月の黒字分から予定資金への積立と投資への積立を振り分けます。
資産運用へ進む前の段階として、収入と支出を把握し、毎月継続して現金を残せる家計をつくることが土台になります。
生活費・予備資金・運用資金は口座を分ける
資金の用途ごとに口座を分けると、生活費に使える金額と、投資へ回せる金額を把握できます。同じ普通預金口座にすべてを置く場合は、口座残高が多く見えるため、使ってよい金額との区別が曖昧になります。
| 口座 | 主な役割 | 入出金の考え方 |
|---|---|---|
| 生活費用口座 | 給与の受け取りと日常の支払い | 毎月の収入と支出が動く |
| 予定資金用口座 | 数年以内に予定している支出の積立 | 目的ごとに積み立て、予定時期に使う |
| 予備資金用口座 | 半年分の生活費を保管する | 収入減少や緊急支出が発生したときに使う |
| 証券口座 | 余剰資金を中長期で運用する | 生活費や予備資金を移さない |
予備資金用口座には、普通預金など、必要なときに短期間で引き出せる預貯金を使います。定期預金を利用する場合は、中途解約の手続きや適用金利を確認し、一部は普通預金へ残しておくと急な支払いに対応できます。
ここでいうキャッシュは、すべてを紙幣として自宅に保管するという意味ではありません。日常用の現金に加えて、普通預金など、価格変動を受けずに引き出せる資金を含みます。
NISAへ入れるお金も余剰資金から決める
NISAには年間の投資枠(成長投資枠240万円/つみたて投資枠120万円、生涯1,800万円)がありますが、枠を使い切ることを前提に家計を組む必要はありません。また年間枠は使い残しても失効するわけではないので、焦る必要もありません。生活費、予備資金、予定資金を確保した後の余剰資金から、無理のない投資額を決めます。
NISA口座で購入した株式や投資信託にも価格変動があります。非課税制度を利用していても、生活費が必要になった時点の価格によっては、購入額を下回る金額で売却することもありえます。
毎月の余剰資金が2万円であれば、2万円を積み立てる形で十分です。賞与が入った月にも、翌年の税金や大きな支出を差し引き、残った金額から追加投資を考えます。
予備資金を使った後は補充を優先する
病気や失業などで予備資金を取り崩した場合は、減った金額を補充します。積立投資を継続すると家計に余裕がなくなる場合は、投資額を減らし、現金・預貯金を半年分まで戻すことを優先します。
例えば、150万円用意していた予備資金から60万円を使い、残高が90万円になった場合は、再び150万円に達するまで毎月の黒字分を預貯金へ回します。積立額は、生活費や予定支出への影響が出ない範囲へ調整します。
予備資金は、一度用意したら終わりではありません。住居費の上昇、家族の増加、転職、独立などによって毎月の生活費が変わったときは、半年分の金額も計算し直します。
現金を確保すると投資を続ける余裕が生まれる
半年分の生活費を現金・預貯金で確保する目的は、投資の収益を高めることではなく、生活と運用を切り離すことにあります。収入が減ったときや急な支出が重なったときにも、生活費を投資資産から用意する必要がなくなります。
資産運用を始める際は、生活費、予定資金、半年分の予備資金を先に取り分けます。その後に残った余剰資金が、株式や投資信託などへ回せる運用資金です。
現金を十分に持つと、投資額が一時的に少なくなる場合があります。それでも、相場の動きにかかわらず暮らしを維持できる状態があれば、中長期の運用方針を保てます。
