雇用保険制度の基礎知識 失業給付・育児休業給付・教育訓練給付の仕組み

雇用保険制度は、労働者が失業したときや再就職を目指すとき、育児や介護で仕事を休むとき、職業能力を高めるために学び直すときなどに、生活と雇用の安定を支えるための公的な保険制度です。

社会保険の中でも、雇用保険は「働くこと」と強く結びついた制度です。会社を退職したときの基本手当、早期に再就職したときの再就職手当、育児休業中の育児休業給付、家族の介護で休むときの介護休業給付、資格取得やスキルアップを支える教育訓練給付など、働く人の生活の変化に合わせた給付が用意されています。

雇用保険は、正社員だけの制度ではありません。パート、アルバイト、契約社員、派遣社員などでも、一定の条件を満たす場合は雇用保険の被保険者になります。一方で、個人事業主やフリーランスなど、雇用されていない働き方では原則として対象外になります。

この記事では、雇用保険制度の加入要件、保険料、基本手当、就職促進給付、育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付、退職時の手続き、相談先について整理します。

雇用保険制度とは

雇用保険制度は、労働者の生活と雇用の安定、再就職の促進、能力開発などを支える制度です。失業した人に基本手当を支給する制度として知られていますが、雇用保険の役割は失業時の給付だけではありません。

雇用保険には、失業等給付、育児休業給付、雇用保険二事業などがあります。失業したときの生活支援、再就職支援、育児や介護による休業時の所得補助、教育訓練を通じたスキルアップ支援など、働く人の状況に応じた給付や支援が用意されています。

制度・給付 主な内容
基本手当 失業した人が再就職を目指す間の生活を支える給付です。
就職促進給付 早期再就職や就業を促すための給付です。再就職手当などがあります。
育児休業給付 育児休業中の所得を補う給付です。
介護休業給付 家族の介護のために休業する場合の所得を補う給付です。
教育訓練給付 指定された教育訓練を受ける場合に、受講費用の一部を支給する制度です。
雇用保険二事業 雇用安定事業、能力開発事業として、事業主支援や職業能力開発を行います。

雇用保険は、退職後だけでなく、在職中にも関係します。育児休業、介護休業、教育訓練給付などは、働き続けながら生活やキャリアを支える制度です。

雇用保険の加入対象者

雇用保険は、事業所に雇用される労働者が対象になります。雇用形態の名称ではなく、実際に雇用されて働いているか、所定労働時間や雇用見込みの条件を満たすかが重要です。

原則として、1週間の所定労働時間が20時間以上あり、31日以上の雇用見込みがある労働者は雇用保険の被保険者になります。パート、アルバイト、契約社員、派遣社員などでも、条件を満たせば加入対象です。

加入要件 内容
週の所定労働時間 原則として1週間の所定労働時間が20時間以上であること
雇用見込み 31日以上の雇用見込みがあること
雇用関係 事業主に雇用され、賃金を受けて働く労働者であること

「所定労働時間」とは、労働契約や就業規則で定められた通常の労働時間を指します。残業時間を含めて週20時間になるかどうかではなく、契約上の勤務時間が基準になります。

31日以上の雇用見込みについては、最初の契約期間が短くても、更新の可能性がある場合や、実態として31日以上働く見込みがある場合には対象になることがあります。

学生や短時間労働者の扱い

昼間は学生である場合などは、原則として雇用保険の被保険者になりません。ただし、卒業見込みで卒業後も同じ事業所で働く予定がある場合や、休学中の場合など、例外的に加入対象になることがあります。

短時間労働者については、現在は週20時間以上が基本的な加入基準です。ただし、令和10年10月1日からは、雇用保険の適用対象が拡大され、週所定労働時間の基準が20時間以上から10時間以上へ変更される予定です。今後、短時間勤務の人にも雇用保険が広がるため、パート・アルバイトの働き方にも影響が出ます。

雇用保険料の仕組み

雇用保険料は、労働者と事業主の双方が負担します。労災保険は事業主が全額負担しますが、雇用保険は給与から本人負担分が差し引かれます。

雇用保険料は、賃金に雇用保険料率を掛けて計算されます。保険料率は年度や事業の種類によって変わります。一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業などで料率が異なります。

雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険料率

給与明細では、社会保険料の一部として雇用保険料が差し引かれています。健康保険料や厚生年金保険料に比べると金額は小さいですが、失業時や休業時の給付につながる重要な保険料です。

基本手当

基本手当は、雇用保険の被保険者だった人が離職し、働く意思と能力がありながら就職できない状態にある場合に支給される給付です。一般的には「失業給付」や「失業保険」と呼ばれることもあります。

基本手当は、退職すれば自動的に受け取れるものではありません。ハローワークで求職の申し込みを行い、失業の認定を受ける必要があります。また、一定の被保険者期間が必要です。

基本手当を受けるための主な条件

条件 内容
失業状態にあること 働く意思と能力があり、求職活動をしているが就職できない状態であること
被保険者期間 原則として、離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あること
求職の申し込み 住所地を管轄するハローワークで求職の申し込みを行うこと
失業認定 指定された認定日に、求職活動の状況などについて失業の認定を受けること

倒産、解雇、雇止め、正当な理由のある自己都合退職などでは、一般的な自己都合退職とは異なる扱いになる場合があります。特定受給資格者や特定理由離職者に該当する場合、必要な被保険者期間や所定給付日数が変わります。

基本手当の日額

基本手当の日額は、離職前の賃金をもとに計算されます。おおまかには、離職前6か月の賃金をもとに1日あたりの賃金日額を計算し、その一定割合が基本手当日額になります。

基本手当日額の給付率は、賃金が低い人ほど高く、賃金が高い人ほど低くなる仕組みです。また、年齢区分ごとに上限額が設定されています。実際の金額は、ハローワークでの手続き後に交付される雇用保険受給資格者証などで確認します。

所定給付日数

基本手当を受けられる日数を「所定給付日数」といいます。所定給付日数は、離職理由、年齢、雇用保険の被保険者であった期間によって異なります。

離職区分 所定給付日数の考え方
一般の離職者 被保険者期間に応じて、90日から150日が基本になります。
特定受給資格者 倒産・解雇などの場合、年齢や被保険者期間に応じて給付日数が長くなることがあります。
特定理由離職者 雇止めや正当な理由のある自己都合退職などで、扱いが変わる場合があります。
就職困難者 障害などにより就職が難しい人は、給付日数が長く設定される場合があります。

一般の離職者の場合、被保険者期間が1年以上10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日という形が基本になります。倒産・解雇などの離職理由では、年齢や被保険者期間によって90日から330日になる場合があります。

待期期間と給付制限

基本手当には、7日間の待期期間があります。ハローワークで求職の申し込みをした後、通算7日間は基本手当が支給されません。

自己都合退職の場合は、待期期間に加えて給付制限が付くことがあります。令和7年4月1日以降は、原則の給付制限期間が2か月から1か月へ短縮されています。ただし、5年間で3回以上の自己都合離職の場合などは、3か月の給付制限となる場合があります。

また、離職日前1年以内または離職後に、雇用の安定や就職促進に資する教育訓練を受けた場合には、給付制限が解除される場合があります。退職後に学び直しを考える場合は、ハローワークで対象となる教育訓練か確認する必要があります。

基本手当を受けるまでの流れ

基本手当を受けるには、退職後にハローワークで手続きを行います。退職しただけでは給付は始まりません。

流れ 内容
1. 退職 勤務先から離職票などを受け取ります。
2. ハローワークで求職申し込み 住所地を管轄するハローワークで求職の申し込みと受給手続きを行います。
3. 受給資格の決定 離職理由や被保険者期間などが確認されます。
4. 雇用保険説明会 受給中の注意点や失業認定の方法について説明を受けます。
5. 待期期間 7日間の待期期間があります。
6. 給付制限 自己都合退職などの場合、給付制限が付くことがあります。
7. 失業認定 原則として4週間に1回、求職活動の状況について認定を受けます。
8. 基本手当の支給 認定された日数分の基本手当が支給されます。

受給期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。病気、けが、妊娠、出産、育児などで30日以上働けない場合は、受給期間を延長できる場合があります。

再就職手当

再就職手当は、基本手当の受給資格がある人が、早期に安定した職業に就いた場合に支給される就職促進給付です。失業期間を長引かせず、早期の再就職を後押しする制度です。

再就職手当を受けるには、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っていることなど、一定の要件を満たす必要があります。

支給残日数 支給額の考え方
所定給付日数の3分の2以上 支給残日数の70%に相当する日数 × 基本手当日額
所定給付日数の3分の1以上 支給残日数の60%に相当する日数 × 基本手当日額

再就職手当は、早く就職すると基本手当をもらい損ねるという考え方を補う制度です。早期に安定した職業に就いた場合でも、一定の条件を満たせばまとまった給付を受けられます。

育児休業給付

育児休業給付は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に、休業中の所得を補うための給付です。子どもを育てながら仕事を続けるための重要な制度です。

育児休業給付を受けるには、育児休業を取得していること、休業開始前に一定の被保険者期間があること、休業中の就業日数や賃金が一定の条件を満たすことなどが必要です。

項目 内容
対象 雇用保険の被保険者が育児休業を取得する場合
主な目的 育児休業中の所得を補い、雇用継続を支えること
支給期間 原則として子が1歳になるまで。一定の場合は延長されます。
支給額の目安 休業開始時賃金日額をもとに計算されます。

育児休業給付は、勤務先を通じて手続きを行うことが多い給付です。育児休業を取得する予定がある場合は、勤務先の人事・労務担当部署に早めに確認しておく必要があります。

介護休業給付

介護休業給付は、家族の介護のために介護休業を取得した雇用保険の被保険者に支給される給付です。親や配偶者などの介護が必要になったとき、一定期間仕事を休みながら介護体制を整えるための制度です。

介護休業給付を受けるには、対象家族を介護するために休業していること、休業開始前に一定の被保険者期間があること、休業中の就業日数や賃金が一定の条件を満たすことなどが必要です。

項目 内容
対象となる休業 対象家族を介護するための介護休業
対象家族 配偶者、父母、子、配偶者の父母など一定の家族
支給対象期間 対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得できます。
支給額の目安 休業開始時賃金日額をもとに計算されます。

介護休業は、長期にわたって自分で介護を続けるためだけの制度ではありません。介護サービスの手配、施設探し、ケアマネジャーとの相談、家族間の役割分担など、介護体制を整えるために使う制度として考えるとよいです。

教育訓練給付

教育訓練給付は、働く人の主体的な能力開発やキャリア形成を支援する制度です。厚生労働大臣が指定する講座を受講・修了した場合に、受講費用の一部が支給されます。

教育訓練給付には、一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練があります。対象講座や給付率、申請手続きが異なるため、受講前に確認が必要です。

種類 対象となる訓練の例 給付内容の概要
一般教育訓練 資格取得講座、語学、IT、事務系講座など 教育訓練経費の20%。上限10万円。
特定一般教育訓練 速やかな再就職や早期のキャリア形成に資する講座 教育訓練経費の40%。一定要件で50%となる場合があります。
専門実践教育訓練 専門職資格、専門学校、大学院、デジタル関係など中長期的キャリア形成に資する講座 受講中は50%、資格取得・就職等で70%、賃金上昇要件を満たすと最大80%まで支給されます。

専門実践教育訓練では、教育訓練経費の50%が6か月ごとに支給されます。資格取得などをして、訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は70%まで、さらに賃金が受講開始前より5%以上上昇した場合は80%まで支給されます。令和6年10月以降に開講する講座では、最大80%までの拡充が案内されています。

教育訓練給付を利用する場合は、受講しようとする講座が厚生労働大臣の指定講座かを確認する必要があります。また、特定一般教育訓練や専門実践教育訓練では、受講開始前にハローワークで手続きが必要です。講座を申し込んだ後では間に合わない場合があるため、受講前の確認が欠かせません。

高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働き続ける人の賃金が一定程度低下した場合に支給される給付です。定年後の再雇用などで賃金が下がる場合に、雇用の継続を支える役割があります。

ただし、高年齢雇用継続給付は制度改正によって給付率の見直しが行われており、対象者や支給額は時期によって変わります。60歳以降の働き方を考える場合は、年金、給与、雇用保険給付を合わせて確認する必要があります。

雇用保険と退職時の確認事項

退職時には、雇用保険に関する手続きが発生します。特に基本手当を受ける可能性がある場合は、離職票、離職理由、被保険者期間を確認しておくことが大切です。

確認事項 内容
雇用保険被保険者証 雇用保険の加入履歴に関係する書類です。転職先でも使うことがあります。
離職票 基本手当の受給手続きに必要です。勤務先がハローワークへ手続きした後に交付されます。
離職理由 自己都合、会社都合、契約期間満了、雇止めなどにより給付内容が変わります。
被保険者期間 基本手当や教育訓練給付などの受給要件に関係します。
退職後の働き方 再就職、独立、フリーランス、職業訓練などによって必要な手続きが変わります。

離職票に記載された離職理由に納得できない場合は、ハローワークで事情を説明できます。最終的な離職理由の判断はハローワークが行います。退職時のやり取り、雇用契約書、更新の有無、勤務実態などが関係するため、必要な資料を残しておくとよいです。

雇用保険とフリーランス・個人事業主

雇用保険は、雇用されて働く労働者を対象とする制度です。そのため、個人事業主やフリーランスとして働く人は、原則として雇用保険の被保険者にはなりません。

会社を退職して独立する場合、雇用保険の基本手当を受けられるかどうかは、求職活動を行う意思や状況によって判断されます。すでに自営業を開始している場合や、就職する意思がない場合は、基本手当の対象にならないことがあります。

一方で、再就職手当は、一定の要件を満たして事業を開始した場合にも対象になることがあります。退職後に独立を考えている場合は、事業開始前にハローワークで手続きや要件を確認しておきましょう。

雇用保険の相談先

雇用保険の相談先は、内容によって異なります。勤務先を通じて手続きするものと、ハローワークで本人が手続きするものがあります。

相談内容 主な相談先
雇用保険の加入状況 勤務先の人事・労務担当部署、ハローワーク
退職時の離職票 勤務先、ハローワーク
基本手当の受給手続き 住所地を管轄するハローワーク
離職理由に関する相談 ハローワーク
再就職手当 ハローワーク
育児休業給付 勤務先、ハローワーク
介護休業給付 勤務先、ハローワーク
教育訓練給付 ハローワーク、教育訓練給付金検索システム

雇用保険は、勤務先が手続きを行う場面も多い制度ですが、給付を受ける本人に関係する情報も多くあります。退職や休業、教育訓練を考えるときは、勤務先だけでなくハローワークにも確認しておくと安心です。

雇用保険制度を理解する意味

雇用保険制度は、失業したときだけでなく、働き続ける過程でも役立つ制度です。育児、介護、学び直し、再就職、60歳以降の雇用継続など、働き方が変わる場面で生活を支える役割があります。

一方で、雇用保険の給付は、条件を満たせば自動的に支給されるものではなく、基本手当を受けるにはハローワークで求職の申し込みが必要です。教育訓練給付では、受講前の手続きが必要な場合があります。育児休業給付や介護休業給付も、勤務先を通じた申請が関係します。

まずは、自分が雇用保険に加入しているか、給与明細や雇用契約の内容で確認することが必要です。そのうえで、退職、育児、介護、学び直しなどの予定がある場合は、早めに勤務先やハローワークに相談しておくとよいと思います。

雇用保険は、働く人の生活と再出発を支える制度です。制度の基本を理解しておくことで、退職や休業の場面で慌てず、利用できる支援を確認しながら次の行動を考えられます。

参考資料