【収益性分析】ROE分解分析(デュポン・システム)で見る企業の強みと弱み

ROEは、自己資本に対してどれだけ効率よく利益を生み出しているかを見る代表的な指標です。ただ、ROEが高い企業を見つけても、その高さが何によって生まれているのかまでは、数字を一つ見るだけではわかりません。

そこで役立つのが、ROEをいくつかの要素に分けて考えるROE分解分析です。一般にデュポン・システムと呼ばれる考え方で、利益率、資産の回転効率、財務レバレッジの3つに分けて確認します。こうして分解してみると、企業の収益構造のどこが強く、どこに弱さがあるのかが見えるようになってきます。

ROE分解分析とは何か

ROEは、当期純利益を自己資本で割って求めます。

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本

この式だけでも株主資本の効率はわかりますが、企業の中身を読み取るには少し情報が足りません。そこで、ROEを次の3つに分けて考えます。

ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
  • 売上高純利益率:売上のうち、最終的にどれだけ利益が残るか
  • 総資産回転率:持っている資産をどれだけ効率よく売上につなげているか
  • 財務レバレッジ:自己資本に対してどのくらい資産を使っているか

この3つを分けて見ることで、ROEの高さが本業の収益力によるものなのか、資産効率によるものなのか、借入を活用した資本構成によるものなのかを確認できます。

なぜ分解して見る必要があるのか

同じROE15%でも、その中身は企業によってかなり違います。利益率が高くてROEが高い企業もあれば、利益率は平凡でも資産回転が速くてROEを押し上げている企業もあります。さらに、利益率や回転率がそこまで高くなくても、財務レバレッジが大きいためにROEが高く見えている企業もあります。

この違いを見分けないままROEの数字だけで評価すると、企業の強みを取り違えることがあります。収益力が強い企業と、負債活用で見かけ上ROEが高い企業では、安定性やリスクの見え方が変わってきます。

ROE分解分析は、数字の表面ではなく、企業の体質を読むための方法だと考えるとわかりやすいです。

3つの要素が示す意味

売上高純利益率

売上高純利益率は、売上高に対してどれだけ最終利益が残るかを示します。商品力や価格決定力、コスト管理の状態が反映されやすい部分です。

この比率が高い企業は、値下げ競争に巻き込まれにくい、付加価値の高い事業を持っている、販管費や原価の管理がうまい、といった特徴を持つことがあります。ブランド力が強い企業や高付加価値のサービス企業では、この部分がROEの強みになりやすいです。

反対に、売上は大きくても利益率が低い企業では、薄利で回している構造かもしれません。売上高純利益率が低いままROEを維持している場合は、ほかの要素が支えている可能性があります。

【収益性分析】売上高当期純利益率で見る最終的なもうけの割合

総資産回転率

総資産回転率は、総資産をどれだけ効率よく売上につなげているかを示します。店舗、工場、在庫、設備などを抱えながら、それらを十分に使えているかを見る指標です。

小売業や外食業のように、利益率はそれほど高くなくても資産を回して売上を積み上げる業種では、この部分が重要になります。逆に、設備投資が大きい業種や、資産を多く抱える業種では総資産回転率が低く出やすくなります。

総資産回転率が高い企業は、少ない資産で売上を生み出せているという意味で効率性があります。ただし、無理な拡大や在庫圧縮で一時的に数字がよく見えることもあるため、継続性も確認したいところです。

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財務レバレッジ

財務レバレッジは、総資産を自己資本で割って求めます。自己資本だけでなく負債も使って事業を回している度合いを見る指標です。

財務レバレッジが高い企業は、自己資本に対して大きな資産を使っているため、ROEが高くなりやすくなります。ただし、これは借入依存度が高いことと表裏一体です。利益が順調なときは効率がよく見えても、業績悪化局面では負担が重くなることがあります。

そのため、財務レバレッジによって押し上げられたROEは、収益力や効率性によるROEとは分けて考えたほうが判断しやすくなります。

【収益性分析】総資本利益率および自己資本利益率の要素分解と財務レバレッジ

具体例で見るROE分解分析

たとえば、A社とB社のROEがどちらも12%だったとします。表面的には同じ水準ですが、中身を分けるとかなり違うことがあります。

  • A社:売上高純利益率 8% × 総資産回転率 1.0回 × 財務レバレッジ 1.5倍 = ROE 12%
  • B社:売上高純利益率 3% × 総資産回転率 1.0回 × 財務レバレッジ 4.0倍 = ROE 12%

A社は利益率が高く、事業そのものの収益力でROEを作っています。一方のB社は、利益率が低いぶん、財務レバレッジの大きさでROEを押し上げています。どちらもROE12%ですが、安定感やリスクの見え方はかなり異なります。

また、次のような企業も考えられます。

  • C社:売上高純利益率 2% × 総資産回転率 3.0回 × 財務レバレッジ 2.0倍 = ROE 12%

C社は利益率が低くても、資産を高速で回してROEを作っています。これは小売業や流通業で見られやすい形です。A社、B社、C社は同じROEでも、強みの源泉がまったく違います。

ROE分解分析で見える企業の強み

利益率が高い企業の強み

利益率が高い企業は、価格競争に巻き込まれにくい、独自性がある、ブランド力がある、といった強みを持っていることがあります。このタイプは、売上が急拡大しなくても利益を積み上げやすく、景気後退局面でも比較的耐えやすい場合があります。

ROE分解分析では、売上高純利益率が高いことがそのまま事業の質の高さとして見えてきます。

資産効率が高い企業の強み

総資産回転率が高い企業は、持っている資産を遊ばせず、売上につなげる力があります。店舗や設備を効率よく使えている、在庫管理がよい、資産の運用に無駄が少ない、といった特徴が見えることがあります。

利益率がそれほど高くなくても、回転の速さでROEを確保できる企業は、事業モデルとして強さを持っていると考えられます。

適度な財務レバレッジの活用

財務レバレッジそのものが悪いわけではありません。安定した収益基盤がある企業が、無理のない範囲で負債を使うことで、資本効率を高めているケースもあります。重要なのは、高すぎないか、持続できる範囲か、という点です。

適度な財務レバレッジは、資本を効率よく使うという意味で企業の強みになることがあります。

ROE分解分析で見える企業の弱み

利益率の低さが続いている

売上高純利益率が低い状態が続いている企業は、競争が厳しい、原価や販管費の負担が重い、価格決定力が弱い、といった課題を抱えているかもしれません。ROEがある程度高く見えても、その背景が低い利益率なら注意が必要です。

資産を抱えすぎている

総資産回転率が低い企業は、設備、在庫、不動産などを多く抱えながら、それを十分に活かし切れていない可能性があります。大型投資の回収が遅れている場合や、資産が重い事業構造の場合には、この点が弱みとして出てきます。

レバレッジ依存が強い

財務レバレッジが高すぎる企業は、ROEが見栄えよく見えても、景気後退や金利上昇の局面で脆さが出ることがあります。負債の返済負担や金利負担が重くなると、ROEの高さが一気に崩れることもあります。

ROE分解分析では、見かけ上の高ROEの裏にあるリスクを確認できる点が大きな利点です。

業種によって見方は変わる

ROE分解分析は便利ですが、どの業種にも同じ基準を当てはめるわけにはいきません。たとえば、ブランド力の強いメーカーやソフトウェア企業では利益率が高く出やすく、小売業や外食業では総資産回転率が高く出やすくなります。不動産業や金融業では、財務レバレッジの水準もほかの業種と違って見えることがあります。

そのため、ROE分解分析を使うときは、同業他社と比較することが大切です。異業種どうしで単純に比べるより、同じ業界の中でどの要素が優れているかを見たほうが、企業の特徴がつかみやすくなります。

あわせて見たい指標

ROA

ROAは、総資産に対してどれだけ利益を生み出しているかを見る指標です。ROEが高くてもROAが低い場合は、財務レバレッジによってROEが押し上げられている可能性があります。ROEとROAを並べると、収益力と資本構成の違いが見えやすくなります。

営業利益率

売上高純利益率は最終利益ベースなので、特別損益や税金の影響を受けます。本業の収益力を見たいなら、営業利益率も確認したいところです。営業利益率が高い企業は、事業そのものの採算がよいと考えやすくなります。

自己資本比率

財務レバレッジを見るときは、自己資本比率もセットで見ておくと判断しやすくなります。レバレッジが高くても自己資本比率が極端に低い場合は、財務の余裕が乏しいかもしれません。ROEの高さと財務の安定性を切り分けるために役立ちます。

ROE分解分析を見るときの注意点

ROE分解分析は便利ですが、単年だけで判断すると一時的な要因に引っ張られることがあります。特別利益や特別損失、大型投資の直後、景気循環の山と谷などで数字が大きく動くこともあります。そのため、少なくとも3期程度は並べて確認したいところです。

また、株主資本が小さくなりすぎている企業では、ROEが高く出やすくなることがあります。自己株式の取得や損失計上の影響で自己資本が薄くなっている場合は、ROEの高さだけで評価しないほうがよいと思います。

確認の順番としては、まずROEの水準を見て、その次に利益率、総資産回転率、財務レバレッジのどれが効いているかを確認する流れがよいかと思います。

ROE分解分析は高ROEの中身を読むための方法

ROE分解分析は、ROEという一つの数字を、利益率、資産効率、財務レバレッジの3つに分けて考える方法です。これにより、企業の強みが収益力にあるのか、効率性にあるのか、それとも資本構成にあるのかを読み分けられます。

ROEが高い企業を見つけたときは、その数字の背景まで見ておくことが大切かと思います。利益率が高い企業は事業の質に強みがあり、総資産回転率が高い企業は効率性に強みがあります。一方で、財務レバレッジの大きさでROEが高く見えている企業は、安定性まで含めて慎重に見たいところです。

企業分析では、良い数字を見つけるだけでなく、その数字がどこから来ているのかを確認することが大切です。ROE分解分析は、そのための基本的で実用的な見方として押さえておきたい手法です。