介護職として働く中で、「国家資格である介護福祉士を目指してみたい」と考える方もいらっしゃるかと思います。現場経験を活かしながら専門性を高めていける資格として、介護福祉士は非常に多くの職場で求められています。
ここでは、介護福祉士という資格について、基本的な内容から取得の流れ、活躍の場、さらに取得後のステップアップまでを整理してみました。
介護福祉士とはどんな資格か
介護福祉士は、1987年に介護の専門職として創設された国家資格です。介護保険制度が導入される以前から、高齢者や障害を持つ方の支援に関する専門性を社会的に認める仕組みとして注目されてきました。
この資格を持つことで、日常生活に支援が必要な方に対して、身体介護(入浴・排泄・食事など)や生活援助(掃除・買い物など)を提供するだけでなく、介護に関する相談に乗ったり、他職種との連携を図ったりするための知識と技術を体系的に学んだことが認められます。
単に「介護ができる人」ではなく、「根拠を持って、専門職としての判断ができる人」としての評価を受けられるようになるのが、介護福祉士の大きな特徴と言えるかと思います。
活躍できる場
介護福祉士は、さまざまな福祉・医療の現場で求められています。以下のような施設では、資格を持っていることで採用や待遇の面で優遇されることが多くなっています。
- 特別養護老人ホーム(特養):
長期的な入所者のケアを担う施設。要介護度が高めの方が多く、専門的な判断力が重視されます。 - 介護老人保健施設(老健):
在宅復帰を目指す方へのリハビリ支援を行う中間施設。医療職との連携が多いのが特徴です。 - グループホーム:
認知症の方が共同生活を送る少人数制の施設。きめ細やかな対応と認知症への理解が求められます。 - デイサービス・デイケア:
自宅で生活する高齢者が日中だけ通う施設。介護だけでなくレクリエーションや機能訓練など幅広い業務があります。 - 訪問介護:
利用者の自宅を訪問し、1対1で支援を行います。状況判断力と信頼関係づくりが重要です。 - 障害者支援施設:
身体・知的障害を持つ方の日常生活や社会参加をサポートする施設。 - 医療機関:
療養型病床など、介護職の配置がある病院や診療所でも活躍の場があります。
現場によっては、介護福祉士を取得していることが「リーダー職の条件」とされているケースもあります。
資格取得のルート
介護福祉士の取得方法は複数ありますが、社会人として働きながら資格を取る方が多いため、実務経験ルートが最も一般的です。
どのルートであっても、最終的には国家試験をクリアすることが求められます。
1. 実務経験ルート
- 介護や福祉分野での勤務実績が3年以上(従業期間540日以上)
- 実務者研修を修了していること(初任者研修とは別の内容)
- 国家試験を受験・合格
このルートが最も一般的で、働きながら資格取得を目指す方に選ばれています。
2. 養成施設ルート
- 厚生労働省が認可した専門学校・短大などの養成校を卒業
- 2022年度から国家試験の受験が必須になっています(卒業のみでは資格取得できません)
施設によっては2年制・3年制があり、学費やカリキュラム内容も異なります。
3. 福祉系高校ルート
- 福祉に関するカリキュラムがある高校で学び、実習なども含めて3年間を修了
- 卒業後、国家試験を受験する必要があります
高校在学中に準備ができるため、若年層の取得者が増えてきています。
国家試験の概要
介護福祉士国家試験は、公益財団法人 社会福祉振興・試験センターが主催し、年に1回実施されます。
受験スケジュール
- 6月中旬~8月:受験申込書の配布・請求期間
- 8月下旬~9月上旬:受験申込受付期間
- 翌年1月:筆記試験
- 翌年2月:筆記試験合格通知
- 翌年3月上旬:実技試験
- 翌年3月下旬:合格発表
※詳細な日程は年度によって異なるため、最新情報は公式サイトでの確認が必要です。
公益財団法人 社会福祉振興・試験センター URL:https://www.sssc.or.jp/
この団体は、介護福祉士のほか、社会福祉士・精神保健福祉士など福祉系国家資格の試験を統括しています。
筆記試験
- 実施時期:毎年1月下旬〜2月初旬
- 科目数:13科目群(人間と社会、介護、こころとからだのしくみ、医療的ケア など)
- 問題数:約125問(マークシート方式)
- 試験時間:約3時間半
出題領域と科目群は以下のとおりです。試験の内容は年々バランス型になっており、暗記よりも理解と判断力が求められる傾向があるようです。
1. 人間と社会
- 人間の尊厳と自立
- 人間関係とコミュニケーション
- 社会の理解
2. 介護
- 介護の基本
- コミュニケーション技術
- 生活支援技術
- 介護過程
3. こころとからだのしくみ
- 発達と老化の理解
- 認知症の理解
- 障害の理解
- こころとからだのしくみ
4. 医療的ケア
- 医療的ケア(たん吸引、経管栄養)
実技試験
- 現在は原則として筆記試験に合格した後に実施されますが、実務者研修を修了していれば免除されます。
合格基準と合格率
- 全体得点の約60%以上かつ、すべての領域で一定の基準点を超える必要があります。
- 毎年の試験結果により、細かな基準点は調整される場合があります。
- 2024年度試験では全体の合格率は約72%。実務経験ルートの受験者が多数を占めます。
資格取得後のステップアップ
介護福祉士として働き始めたあとも、さらなる成長の道があります。
- 認定介護福祉士:
介護福祉士の上位資格とされ、実務経験や研修受講を通じてリーダー的な役割や後進の育成などに携わることができます。全国的に導入が進みつつありますが、まだ取得者は少ないため、今後の展望にも注目されています。介護福祉士資格取得後の実務経験5年以上や100時間以上の研修歴などの受験資格が定められています。 - ケアマネジャー(介護支援専門員):
介護福祉士として5年以上の実務経験があれば、ケアマネジャーの受験資格が得られます。要介護者に合ったケアプランを作成し、介護サービスの調整役として活躍できる職種です。 - 管理職・マネジメント職:
施設長や主任、ユニットリーダーなどの管理的な立場へステップアップするケースもあります。資格だけでなく、実績や人間関係の構築も重要になりますが、介護福祉士を持っていることで信頼や責任を任されやすくなるのは確かです。
おわりに
介護福祉士の資格は、介護業界のなかで信頼性と専門性を兼ね備えた職業資格として全国的に定着しています。現場での経験を土台にした国家試験であるため、日々の業務がそのまま学びにもつながる点は、他の資格とは異なる魅力だと思います。
高齢化社会になり今後も介護分野での人材ニーズは高まり続けることは確かですので、現場での実践力を証明できるだけでなく、キャリアの選択肢も広がるため、長く安定して働きたい方にとっては心強い資格になると思います。
試験対策や学習は大変に感じるかもしれませんが、段階を追って少しずつ取り組めば、現実的に取得を目指せる国家資格です。自分に合ったルートやタイミングで、一歩ずつ準備を進めていくのがよいかと思います。