介護の現場では、高齢者や障害のある方の生活を支えるために、医療的なケアが求められる場面も少なくありません。特に「喀痰吸引」や「経管栄養」は、従来は看護師しか実施できなかった医療行為でしたが、制度改正により一定の研修を修了した介護職も行えるようになりました。
そのために設けられた制度が「喀痰吸引等研修」です。ここではその内容、取得の流れ、活かせる場面などを2025年時点の情報に基づいて紹介します。
喀痰吸引等研修とは
喀痰吸引等研修は、介護職員等が一定の医療的ケア(喀痰吸引・経管栄養)を実施できるようになるための研修です。厚生労働省が定めた指針に基づき、都道府県や指定機関が実施しています。
この研修を修了することで、一定の条件のもとで医療行為を実施することが可能となり、介護現場での支援の幅が広がります。
対象となる医療的ケア
- 喀痰吸引:口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内の吸引
- 経管栄養:胃ろう、経鼻経管による栄養注入
これらは誤嚥性肺炎や栄養障害の予防・改善に不可欠な支援であり、利用者の生命や生活の質に直結します。
研修の種類
研修は実施可能な範囲や対象者に応じて3つの種類に分かれています。
1号研修(基本研修)
- 複数の利用者に対して医療的ケアを実施できる
- 座学、演習、実地研修のすべてが必要
- 施設・訪問介護などで広く活用される
2号研修(特定の者対象)
- 所属事業所の特定利用者(1人または複数名)のみ対象
- 実地研修は該当利用者でのみ実施
- 小規模事業所やグループホームでの活用が多い
3号研修(経管栄養に限定)
- 経管栄養のみ実施対象(自治体により実施有無が異なる)
研修の内容と構成
座学
- 医療的ケアの基礎知識、解剖生理学、感染症対策
- 緊急時対応、医行為の法的理解と倫理
演習
- 機器の取り扱い、吸引・注入の実技練習(マネキン使用)
実地研修
- 医師の指示書に基づき、実際の利用者に対して技術実習
- 所属事業所または指定医療機関での実施が一般的
研修の受講資格と期間
- 介護福祉士や実務者研修修了者、または一定の介護経験がある人
- 座学と演習は約4~5日、実地研修は1か月程度かかることもある
喀痰吸引等研修の費用相場
研修費用は実施機関や地域によって異なるため、受講を検討される際は、複数の研修機関から情報を集め、比較検討されることをおすすめします。
第1号研修(不特定多数の利用者対象)
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費用相場:約3万円〜23万円
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内容:講義・演習・実地研修を含む
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備考:実務者研修修了者は一部科目が免除され、費用が軽減される場合があります 。
第2号研修(特定の利用者対象)
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費用相場:約2万円〜20万円
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内容:講義・演習・実地研修を含む
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備考:実地研修を自身の職場で行う場合、研修機関に手配を依頼するよりも約2万〜4万円程度安くなることがあります。
第3号研修(特定の者対象)
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費用相場:約2万円〜6万円
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内容:講義・演習・実地研修を含む
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備考:一部の自治体では、研修費用が無料となる場合があります。例えば、足立区では基本研修・実地研修への参加費用が無料ですが、テキスト代や交通費などの諸費用は自己負担となります 。
費用を抑えるためのポイント
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実務者研修修了者の特典:実務者研修を修了している場合、喀痰吸引等研修の一部科目が免除され、費用や受講時間が軽減されることがあります。
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職場での実地研修:実地研修を自身の勤務先で行うことで、研修機関に手配を依頼するよりも費用を抑えることができます。
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助成金の活用:国や自治体から助成金や補助金が支給されるケースもあります。詳細は各自治体や研修機関にお問い合わせください。
修了後の活かし方
- 医療的ケアを必要とする利用者の支援に直接関与できる
- 施設内での専門性が高まり、責任ある役割を担える
- 求人の応募条件に「喀痰吸引等研修修了」が明記されていることもあり、転職や昇進にも有利
注意点と実施条件
- 実施には医師の「指示書」が必須
- 施設や事業所で「実施体制の整備」が必要
- 実施内容は記録として保管義務あり(安全管理・トラブル防止のため)
おわりに
喀痰吸引等研修は、介護職にとって「医療との連携」を深める第一歩といえる制度です。特に在宅介護や医療的ケア児への対応が求められるなかで、この研修の重要性は年々高まっています。
利用者の安全・安心な暮らしを支えるためのスキルを身につけたいと考える方にとって、非常に実践的で意義のある研修かと思います。