【安全性分析】短期的な支払余力を測る4つの指標

短期的な支払能力を確認するうえで、もっともよく使われるのは「流動比率」と「当座比率」です。これらは企業の資金繰りの健全性を把握する基本的な指標ですが、それだけで十分とは言えません。実際には資金の即応力や借入金への依存度、利息の支払余力など、補助的な指標も合わせて確認することで、より精度の高い分析が可能になります。

ここでは、流動比率・当座比率と関連する指標として「手元流動性比率」「正味運転資本」「ネットキャッシュ」「インタレスト・カバレッジ・レシオ」の4つを紹介します。

流動比率・当座比率の限界

流動比率や当座比率は有効な指標ですが、次のような弱点があります。

  • 棚卸資産や売掛金が多いと、実際にはすぐ現金化できず資金繰りに影響する
  • 借入金や利息の負担度合いまでは把握できない
  • 現金をどれだけ保有しているかの即応性までは見えにくい

こうした課題を補う意味で、以下の4つの指標をあわせて活用すると、短期安全性をより正確に評価できます。

手元流動性比率(Cash Ratio)

手元流動性比率は、現金や短期有価証券など、すぐに資金化できる資産だけで流動負債をどの程度カバーできるかを示す指標です。流動比率や当座比率が「1年以内に返済可能か」を示すのに対し、手元流動性比率は「今すぐ返済できるか」に注目します。

計算式

手元流動性比率 = (現金・預金 + 短期有価証券) ÷ 流動負債 × 100

現金や短期投資のみで負債をどの程度カバーできるかを見るため、即時性の高い安全性の確認に役立ちます。比率が高ければ安心ですが、必要以上に現金を抱えすぎていると投資機会を逃すこともあるため、バランスを見る必要があります。

正味運転資本(Net Working Capital)

流動比率は割合で示されますが、正味運転資本は金額で把握できるシンプルな指標です。流動資産から流動負債を差し引いた金額で、資金繰りの余裕度を表します。

計算式

正味運転資本 = 流動資産 - 流動負債

  • プラスなら短期の支払余力に余裕がある状態
  • マイナスなら資金不足に陥る可能性がある

製造業や小売業では、在庫の持ち方や仕入・販売のサイクルによって水準が変わるため、業種ごとに見る必要があります。

ネットキャッシュ(Net Cash)

ネットキャッシュは、企業が保有する現金等から有利子負債を差し引いた残高です。当座比率では負債全体とのバランスを見ますが、ネットキャッシュは借入金に焦点を当てます。

計算式

ネットキャッシュ = 現金等 - 有利子負債

  • プラスなら借入金をすべて返済しても余剰資金がある状態
  • マイナスなら借入依存度が高く、資金繰りの柔軟性が低い状態

短期の返済能力だけでなく、中期的な資金調達力も把握するのに有効です。

インタレスト・カバレッジ・レシオ(Interest Coverage Ratio)

流動比率や当座比率は資産と負債のバランスを示しますが、利息支払の余裕度までは分かりません。そこで有効なのがインタレスト・カバレッジ・レシオです。企業が稼いだ利益で利息をどの程度カバーできるかを示す指標です。

計算式

インタレスト・カバレッジ・レシオ = 営業利益 ÷ 支払利息

  • 1倍を下回ると、営業利益だけでは利息を払えない状態を意味する
  • 2〜3倍以上あれば、利息負担に余裕があるとされる

借入依存度の高い企業では特に重要で、金融機関の融資判断にもよく使われます。1倍未満は利息を営業利益で賄えないことを意味し、2〜3倍以上あれば比較的安心とされます。借入依存の大きい企業では特に重要な補完指標です。

4つの指標をあわせてみる視点

指標 見方 流動比率・当座比率との関係
手元流動性比率 現金と短期投資で即応力を測定 即時支払余力を補完
正味運転資本 金額で資金繰り余裕を確認 割合(比率)を補う
ネットキャッシュ 借入金依存度を測定 短期支払能力に中期視点を追加
インタレスト・カバレッジ・レシオ 利息支払の余裕度を測定 負債負担の持続性を補完

流動比率・当座比率を基盤に、これらの補助指標を加えることで、企業の短期安全性を多面的に把握できるかと思います。

おわりに

安全性分析では、流動比率や当座比率は出発点として非常に有効です。ただし、資金の即時性や借入金の影響、利息負担まで考慮するなら、補完的な指標の活用も不可欠です。

手元流動性比率では即時の余力、正味運転資本では資金繰りの余裕、ネットキャッシュでは財務体質、インタレスト・カバレッジ・レシオでは利息負担に対する耐性を確認できます。これらを組み合わせると、より立体的に企業の安全性を判断できると思います。